はじめに
「わかりやすい文章」を書こうとすることは大切です。
文章を書く目的が誰かに何かを伝えることであるならば、特に、伝えようとする「誰か」が不特定多数の場合は、より多くの人が理解できる言い回しを考えたほうが、その目的を達成しやすいことでしょう。
しかし、「わかりにくい文章」「伝わりにくい文章」がダメかというと、必ずしもそうとは思いません。
今回の記事では、そうした文章について肯定的に考えてみたいと思います。
文章はすべてを伝えられない
そもそも文章で伝えられることには限界があると思っています。
なぜならば、もともと文字でできていない世界を、文章に変換しているからです。
非言語→言語の変換の過程で少なからず省略されている情報があるはずです。
情報を可能な限り文章に詰め込もうとすれば、とてつもなく膨大な文章量になり、それは「伝わりにくい文章」や「わかりにくい文章」になることでしょう。
しかし、それは「詳細を含む文章」でもあります。
そう考えてみると、悪いものではないと思えてきます。
「伝わりやすい文章」や「わかりやすい文章」は、筆者が伝えたいことに焦点をあてて、「重要でない」部分を削ぎ落としたもの、と理解することはできますが、その重要かどうかは筆者の判断であり、読者の判断と一致するとは限りません。
素材そのままの状態に近い文章ならば、読者は各自の関心に基づいて必要な情報を見つけることができます。
「長々しい文章」「要点がわからない文章」には、加工されていない、いわば一次データとしての価値があると思います。
日本語は1つの言語ではない
日本語を使う人同士が会話できるのは、お互いに日本語を使っているからです。
ところが、そこで使われている日本語が同じ日本語かというと、実はそうではない場面もあります。
方言はその一つの例ですし、業界によっても同じ言葉が異なる意味合いをもっている場合もあります。
たとえば、「環境」という言葉を聞いたときに、「自然環境」を思い浮かべる業界もあれば、「社会環境」を思い浮かべる業界もあります。
さらに、地域や業界の違いに限らず、人それぞれに言葉のイメージは共通する部分はあったとしても多様なものです。
たとえば、「信仰」という言葉に尊いイメージをもつ人もいれば、少し距離を置くような姿勢をとる人もいます。
ということは、同じ日本語を使って伝える場合でも、伝わる人もいれば、伝わらない人もいるということです。
言葉が伝わるためには、言語が共通しているだけでなく、世界観や価値観や文化がある程度共通している必要があるのかもしれません。
そうだとするならば、ある人たちに「伝わりにくい文章」がある人たちには「伝わりやすい文章」になるということもあり得ます。
(たとえば、若者には若者言葉は伝わるけれど、それ以外の世代には伝わりにくいようなもの。その逆も然りです)
「添削」は難しい
誰かが書いた文章を「添削」しようとすると、その難しさに気づくことがあります。
なぜならば、言葉の使い方は人によって異なるからです。
例えば、ビジネス文書などであれば、その業界の「標準的」な表現に訂正していくことになりますが、それはその業界で最も広く共有されている最大公約数的な表現を選んでいくことでもあります。
一定の基準がある種類の文章であれば、そこに寄せていって、特定の目的を達成できる状態に変換していけば良いため、比較的簡単かもしれません。
ところが、人の思いが綴られた文章を「添削」するのは、とても難しいことです。
添削者が選ぶのは、添削者が「この方がわかりやすい」と判断する表現です。
しかし、そこでは元となる文章を書いた人がなぜ「(添削者にとって)わかりにくい」表現を選んだのかを考える必要があると思います。
もし、(添削者にとって)「わかりにくい」表現を「わかりやすい」表現に変換する過程で始めに込められた思いが塗り替えられたり、抜け落ちてしまったら、それは添削ではなくもはや「改変」になってしまいます。その人の言葉ではなくなります。
(たとえば、無邪気な子どもの作文が大人の添削で大人の作文に変わってしまうようなものです。添削によって国語の授業の評価が上がっていたとしても、原文の方を読んでみたいと思いませんか。私は思います)
おわりに
この記事の文章も「わかりにくい」かもしれません。
でも、「わかる」と思ってくださる方もいるかもしれません。
伝わるかもしれないし、伝わらないかもしれない。
同じ意図で伝わるかもしれないし、違った捉え方で伝わるかもしれない。
けれど、今の私は「それで良い」と思っています。
自分の心のうちを、言葉にして世界に放った。
それが世界にどう響いて、返ってくるかを楽しんでいるところもあります。
文章を書いていて、「わかりにくいかな」と思う場面があるかもしれません。
なかなか「伝わりやすい文章」や「わかりやすい文章」が書けなくて悩むことがあるかもしれません。
でも、それもまた自分の言葉です。
良いじゃないですか。ありのままに書いてみようではありませんか。
*アイキャッチ画像:UnsplashのDariusz Sankowskiが撮影した写真
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